1.はじめに
農業の歴史は病害虫との戦いの歴史とも言われる(栗田 1991)。それを反映するかのように,古くから害虫に関する膨大な数の研究が行われてきた。また害虫管理に有効な天敵昆虫に関する研究も多い。一方,送粉昆虫の研究は自然生態系において花と送粉者の共進化などの視点から行われたものが多く,農業生態系における送粉昆虫の研究は相対的に少ない。害虫の被害は減収に直結するのに対し,送粉昆虫の不足が原因で減収することはあまり目立たず,そのような状態になった場合にはセイヨウミツバチやマルハナバチなどのポリネーターの導入あるいは人工授粉の実施により受粉不足を解消できたことが,農業における送粉昆虫の研究が少ない理由ではないかと推察される。
しかし,世界的に野生送粉者やセイヨウミツバチの減少が顕在化し,生物多様性によって得られる生態系サービスの重要性が認識されるようになった今,送粉者の再評価と保全,有効な利用方法についての研究が急務となっている(IPBES, 2016; IGES, 2017; IPBES 2019)。本稿では,農業における送粉者の重要性と,送粉者が直面する問題,そして送粉者の積極的利用を考える上で欠かせない送粉者の行動制御について概説する。
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